No.159 修行で得た事(直す事)

2012/01/19


<<修行で得た事(直す事)>>

印鑑の修行に入った時、私の師は当時、彫刻では日本1と言われ辞書の編纂や
書においても優れた方で、私がいる時に紫綬褒章を頂きました。

朝起きてから、寝るまで一日中家事と彫刻の日々でした。
一日に練習で数十本を彫刻しました。

毎日一回見てもらいますが「駄目やり直し」と言われたのが多く
それでも1年過ぎた頃にはお客様の注文で簡単な安い商品の物をを彫刻させて
貰いました。

出来上がると見てもらいますが
「これでは商品にならない」といって毎回自分で直していました。

それを見ると確かに商品として立派なものになっていました。
でも良く見ると少ししか直していないように見えます。

ある日、自分でもできると思い、同じものを2本作り一本は師に見てもらい。
残りの一本はこうやって直すだろうと自分で修正しましたが、思うように行かず
3日もかけました。

師が直したものと比べると全く違って私のは良いようで商品に
ならない事がわかりました。

その事を師に話したら
【当然だよ、直すのは創った人の作品を生かさなければならないので
大変で自分が最初から作るよりもっと大変なんだ 】
・・・と

それまで元は私がやったんだから、ちょっと直すくらい楽だろうと
安易な気持ちでいました。実際は反対で変に出来ているのを
良くするのだから、新規よりもっと大変なんだ。

そうなんだ、自分で一からやれば簡単にできるのに私のために
面倒で大変な思いをして直してくれたんだ。
直してもらう事を簡単に考えていた私はほんと
何も知らないでバカだったんだなぁと始めて知りました。

さらに修行時代の最後を迎える時に後輩が入ってきて、今度は
私が直す体験をしました。大変で大変で、すでに彫刻されているのだから
直しようがないところがたくさん。

面倒だから自分で作った方が早いや・・・と良く考えたものです。

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今思うと貴重な体験で、見えない苦労を知ったことは
とても有意義な事でした。
任期が来て辞める時に「私より上手になった」と言われましたが
その事を思うと自分のために無駄な時間を割いてくれた恩は
変えがたく感謝の念いっぱいで、遠く及ばない事を知り、
私への最高の送るための言葉だったんだと思います

今になって改めて師の恩を感じ、ますます師を尊敬するようになりました。
「ちょっと直すだけくらい」がどれだけ大きなものか今つくづく思いだされ
今の私があるのも、そのお陰と感謝の念が
よみがえります。」

修行で学んだのは彫刻の技術ではなく気持ちだったんだと思います。

  記    望月鶴川拝